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君の膵臓を食べたい -書評 【ネタバレ注意】

等身大の高校生男女二人が織り成す青春恋愛小説。青春モノ、恋愛モノの小説が読みたい人にはオススメ!

君の膵臓をたべたい (双葉文庫)

君の膵臓をたべたい (双葉文庫)

 

 

タイトル ジャンル 著者 出版社 敢行日 メディアミックス
君の膵臓をたべたい 青春 住野よる 双葉社 Web小説(小説家になろう 映画(2017年7月28日)
  恋愛     2015/6/17(単行本) 漫画(桐原いづみ
  感動     2017/4/27(文庫版)  

 

現実舞台        

1.内容紹介

 偶然、僕が病院で拾った1冊の文庫本。タイトルは「共病文庫」。 それはクラスメイトである山内桜良が綴っていた、秘密の日記帳だった。 そこには、彼女の余命が膵臓の病気により、もういくばくもないと書かれていて――。 病を患う彼女にさえ、平等につきつけられる残酷な現実。 【名前のない僕】と【日常のない彼女】が紡ぐ、終わりから始まる物語。 全ての予想を裏切る結末まで、一気読み必至!          原文まま

 

2.感想

等身大の高校生二人が織り成す青春恋愛小説

 青春モノ、恋愛モノの小説が読みたいと思う人には確実におすすめ出来る一冊。

 作品の内容としては、主人公とヒロインである桜良、二人の恋愛小説。

 内向的で理屈っぽい主人公と、それを引っ張っていく明朗快活な少女の桜良の会話劇が中心となっている。冗談交じりの会話はテンポが良く、サクサク読み進められる。物語の展開としても、シリアスな場面、日常的な場面とで緩急があるため途中で飽きが来ない。主人公の心情についてもしっかりと書かれており、桜良との関わりや、桜良の病気にどのように悩み考えているかを作中で読み取ることが出来る。

登場人物も、突然絡んで来る不良だとか、何でも出来る天才といったテンプレのキャラクターや、漫画やアニメだと許されるけど現実に居たら違和感しかないキャラクター(妙に主人公に言い寄って来る女の子だとか、思ったことを何でも口にするようなキャラ)がいないので、読んでいて登場人物に感情移入しやすい。

 

病気を扱った悲恋ものではあるが、重苦しくない雰囲気

 ヒロインは膵臓を患っており、主人公達の言動は基本的にそれが起因となっているが、作品の雰囲気はあまり重苦しくなく、寧ろ明るく、青春恋愛モノとしての要素が強い。どちらかと言えば病気という設定は主人公と桜良を結びつけるキーとして働いていると思う。

 なので、『世界の中心で、愛をさけぶ』みたいに、後半病気によって苦しめられる悲恋を描いているものを期待している人にとっては、求めている内容と少し違ってくると思われる。桜良がかかっていた『膵臓の病気』とは何だったかを示唆するような文章や、膵臓を患うとどのような病状が出るかといった、病気に関する掘り下げはあまりされていない。

 私は読むと元気が出るような、ライトな青春モノを期待していたので充分に楽しむことが出来た。

 

主人公の名前が状況に応じて変化するのが面白い

主人公が最初に登場した時の名前は、【秘密を知ってるクラスメイト】だ。そして、【】の中の言葉が、物語の進行とともに変化する。この【】の中の言葉は主人公視点での、主人公が対話している相手にどう思われているかが書かれ、例えば、上記は桜良と話している時であり(桜良にどう思われているかは特に変化する)、図書室の先生だと【大人しい生徒】くん、桜良の友達では【地味なクラスメイト】くんとなる。

 こういった表現は、既に過去に既に使われているのかもしれないが、私は初めて見たので非常に新鮮で面白いと思った。【】に書かれた文字からその時の状況を深読みすることが出来るし、敢えて具体的な描写を挟まずとも端的に主人公の立ち位置を示せるのは、中々に利便的な表現だと思う。

 

3.メディアミックス

・桐原いずみによる漫画版が上下巻で発売されている。 

 

・2017年7月28日、浜辺三波、北村匠海主演で映画化される。

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4.主な登場人物 

  人物名 特徴
1 山内桜良 ヒロイン、基本的にテンションが高い、
2 主人公、インドア派、内向的、小説を読むのが好き、
3 図書室の先生 主人公、桜良と親し気に話す先生。
4 キョウコ 桜良の友達。気の強い性格をしている。
5 男子クラスメイト 無粋な物言いだけど、裏表のない気のいい人物。やたらガムをくれる。
6 ヒナ 主人公の好きだった女子。登場することはないが、会話に時々出て来る。
7 学級委員(タカヒロ 普段は温和で清潔感のある人物。桜良の元カレ。
8 桜良の母親 桜良とよく似ている。

 

5.各章内容(※ネタバレを含むので注意)

0 p.1~4

 プロローグ。主人公のモノローグ。

 桜良との物語が終わった後の主人公、その心境が語られる。

 キーワードである『君の膵臓を食べたい』、それが今後の物語にどう関わってくるのかが気になる展開で終わる。

 

1 p.5~17

 図書室での主人公とヒロインの山内桜良の何気ない日常的な会話のシーン。次に会う日の約束をするまでが描かれる。主人公は、理屈っぽくてローテンション、冗談通じるけどちょっと根暗でシャイ、山内桜良はテンションが高くてやや鬱陶しく、楽観的(そうな)性格をしている事が、二人の会話から伝わる様な構成になっている。

放課後の学校という青春の代名詞の一つと呼べる場所を背景にしていて、青春らしい印象が導入部でぐっと伝わる。また、『共病文庫』というワードが出て来る。

 

2 p.17~51

 主人公の独白、続き、主人公が『共病文庫』を拾って桜良と出会い、桜良が膵臓を患っていて寿命が短いことを唯一知る秘密の友達となった場面の回想。

 舞台は再び現在に戻り、今度は約束をした日。二人は、焼肉を食べに行く。デートかと思いきや、焼肉を食べに行くという変化球。そして、膵臓の病気なのにホルモンを好んで食べるというブラックジョーク。ここでもボケとつっこみを入り交える二人の会話が面白い。その後は、買い物や、カフェに行き、桜良の自虐的な行動に主人公は振り回される。二人の人との関わり方の違いや、『友達』について、しばし会話が繰り広げられる。桜良に元カレがいたこと(伏線)が分かる。

 家に帰った後に、桜良からメールが来る所などが作品にリアリティを与えている。

 

3 p.51~81

 冒頭に、通り魔が現れたというニュース(伏線、ストーリーの途中で数回話題に出て来る)。学校での風景から、続いてまた桜良と出かけるシーン。主人公と桜良が良く一緒に過ごすようになったことが周囲に気づかれ始め、当然、桜良の友達やクラスメイトに噂される(特に桜良はクラスでも人気のある女子であるため)。基本的に堂々としてればいいと考える彼女と、極力話題に触れずにやり過ごそうとする主人公は、今までと行動を変えずに日々を過ごす。いつもの様に二人は出かけるが(主人公にとってまさかのスイパラ)、そこで恋バナをしている所に運悪く桜良の親友のキョウコが現れ、二人がなぜ仲良くしているのか、そしてそれをなぜ自分に隠しているのかを問い詰めて来る。その場を誤魔化したあとは、少物憂げな雰囲気で、これからの予定を話す。

 

4 p.81~154

 主人公と桜良の二人が九州に小旅行にでかける場面。

 本の中の栞がなくなる(伏線)。

 普段別に仲の良くないクラスメイトに話かけられるなど、主人公の日常は少し変化してきていた。そんな中、桜良との何気のないメールの中で、『君が死ぬ前に行きたいところに行けばいい』なんて言ったために、普段と同じように近場に出かけるのと思いきや、主人公は九州への小旅行に付き合わされることになる。『絶対約束やぶっちゃ駄目だよ?』という台詞は良い意味での前振り。

 二人はラーメンを食べるなど暫く観光した後で、宿泊するホテルへと向かう。

 ホテルでは、桜良の提案で『真実か挑戦』というゲームをする。これは、互いにトランプのカードを一枚取り、大きい数字を出した方が勝ちで、真実(質問に対して正直に答えないといけない)か挑戦(罰ゲームをさせる)のどちらかを負けた方に指示できる。ただし、『真実』、『挑戦』どちらを受けるかは負けた方が決められる、というゲーム。このゲームを桜良が始めた目論見としては、主人公の本音を聞きたいということと、ゲームにかこつけてシラフで聞き辛い質問をするため。

 この二人の旅行は友人のキョウコにばれてしまい、二日目は彼女らへのお土産を買って帰ることになる

 

5 p.154~198 

 主人公が桜良と二人で旅行に出かけていたことがクラスに知れ渡り、主人公はちょっとしたいじめにあう。だけど、桜良は普段と変わらず明るく振舞っている。そして、次は主人公が桜良の家に遊びに行くこととなる。将棋やテレビゲームで遊ぶという友達通しで家に集まった時と同じようなやり取りの後で、桜良が主人公を突然壁に押し付け、『恋人でも、好きでもない男の子と、いけないことをする』のが死ぬまでにしたいことの一つだと迫る。だがすぐに、桜良は手を離して「冗談だよ冗談!」と笑い始め、主人公は自分を弄ぶような態度に逆に怒り、今度は桜を押し倒す。だが、桜良が怖がる素振りを見せたため、主人公は後悔し、桜良の家を後にする。

 その帰り道、雨の降る中で主人公は桜良の元カレである学級委員に呼び止められる。学級委員は主人公が桜良と旅行に行ったり家に遊び行ったりしてることに嫉妬し、主人公と言い争いをした後で、主人公の一言にキレて怒りに任せて主人公の左頬を殴る。桜良が仲裁に来てくれたことでその場はおさまる。その後、主人公は、桜良の家で手当てをしてもらい、桜良と仲直りする事が出来た。だが、次の日学校で、主人公は桜良が入院したことを知る。

 

6 p.198~229

 病室で主人公と桜良が会話するシーン。桜良は手品を覚え、主人公にそれを披露する。これまでと変わらない何気ない会話のやり取り。会話の中で主人公は、桜良に「もっと皆と仲良くした方が良い」と助言を受ける。学校での主人公とキョウコは仲が良いとは言えないまでも距離が近くなって来ており、「キョウコに桜良と中途半端な気持ちで近づいたら許さないから」と忠告しながらも、二人の仲を認めている様子。

 その後は、主人公は桜良と病院の売店に行ってアイスを食べながら、自分たちの名前について話すシーンなど。会話の掛け合いが冗談交じりで面白く、時にロマンチックな話題もあり読んでいて青春のイメージが伝わってくる。

 何度か面会したある日、ちょっとお桜良の様子がおかしく……、「真実と挑戦」のゲームをしようとお願いされる。勝負には主人公が勝ってしまい、主人公は「生きるっていうのは、どういうこと?」と質問をする。桜良はその質問を真面目かよと茶化しながらも、その質問に「きっと誰かと心を通わせること」と答える。そして、そう考える理由を聞き、主人公は自分の胸の奥の本心に気づく――。

 だが、桜良の病状は悪化し、入院期間が延びる。

 

7 p.229~258 

 入院期間が延びても平気そうな様子の桜良と、主人公はいつものように冗談交じりの会話をする。だが、先日から桜良の様子がおかしいに気づいていたため、我慢できなくなり何か隠し事をしているのではないのではと問いただす。

 それに対して桜良は「「なにもないよ」と答え、「こんなにも私を必要としてくれるなんて、嬉しい」幸せそうに笑う。二人は、桜良が退院する日に次のデートをしようと約束する。

 桜良が退院する日、主人公は待ち合わせのカフェで桜良を待っていた。

 桜良を待つ間、彼女と出会ってからの出来事について逡巡する。そして、自分の人間性や日常や死生観が大きく変わっていることに気づく。気付けば、周りの人間に興味を持ち、様々なことを自分の意志で選ぶようになっていた。

 桜良から届くメール。そして始まる他愛のない会話。主人公は桜良のことを思いながら『きみの膵臓を食べたい』と返信を打つが、それを最後に桜良からの返信は途絶え、いつまで経っても待ち合わせ場所に桜良は現れなかった。

 ――桜良は死んでいた。無慈悲な通り魔の手によって。

 葬儀が終わって暫く経ってからも、桜良が死んだという事実と未だに向き合えない主人公だったが、ある事を思い出す。『共病文庫』の存在を。

 

8 p.258~299

 桜良の死後、主人公は覚悟を決めて桜良の家へ焼香に向かう。

 桜良の母親と少し会話をした後、『共病文庫』を見せて欲しいとお願いすると、母親は、主人公が桜良が『共病文庫』を渡して欲しいと言っていた男の子だと分かり、涙を流す。

 共病文庫を手に取りページを捲ると、始めの方には病気を患ったことに対し悲観する思いや、日常に関する他愛のない出来事が日記として書かれていた。だが、主人公との出会いを契機に、次第に主人公と一緒に過ごした日々に関する内容が増え、そして、そこには主人公に直接言っていない桜良の本心が書かれていた。桜良の様子がおかしくなった頃、やはり彼女の病状は悪化していたが、そこには前向きに生きることを決めた、桜良の思いが書かれていた。

 『共病文庫』の最後には、主人公へのメッセージが書かれ、そこにはいつもの調子で話す桜良の姿があった。そして、最後の言葉は、奇しくも主人公が最後に送った言葉と同じ『君の膵臓を食べたい。』

 主人公は泣き崩れ、感情が爆発し、桜良への感謝の言葉がとめどなく溢れた。

 

9 p.299~313

 主人公の本名が明かされる。桜良に小説家みたいだと言われた名前。

 家に帰り、『共病文庫』を繰り返し読んでから、主人公は自分にも何か出来る事はないかと考える。

 そして、桜良の親友だったキョウコと会い、彼女に『共病文庫』を見せる。なぜ自分が桜良と仲が良くなったのかを打ち明け、キョウコと本心をぶつけ合う。

 会話の最後に、主人公は勇気を出して「友達になって欲しい」とキョウコに頼む。これは桜良から言われていたことでもあるが、主人公は自ら選択でその言葉を発する。

 

10 p.313~324

 夏休みが始まる日。主人公は桜良の墓参りに行っていた。

 だけど、一人じゃない。隣にはキョウコの姿がある。

 桜良の墓に手を合わせ、今度は自分の思いを吐露する。自分の本心を話す。

 白い階段を下り、次は桜良の家へと向かう主人公とキョウコ。

 そこには、友達の事を冗談交じりにキョウコと話す、桜良と出会うことで変化した主人公の姿があった。