文芸コンパス

小説・ドラマ・アニメetc. 物語の面白さを自分なりに記録するためのブログ

風と共にゆとりぬ -書評・紹介

朝井リョウのエッセイ集第二弾!

朝井リョウが好きな人は確実に笑える一冊。

雑談に使えそうな面白ネタが豊富に書かれています。

風と共にゆとりぬ

風と共にゆとりぬ

 
タイトル ジャンル 著者 出版社 敢行日
風と共にゆとりぬ エッセイ 朝井リョウ 文藝春秋BOOKS 2017/6/30
  笑える      

 

作品紹介(原文まま)

 ダ・ヴィンチBOOK OF THE YEAR 2015 1位!(エッセイノンフィクション部門) 『時をかけるゆとり』に続く、待望の第二弾。  「別冊文藝春秋」「日本経済新聞 プロムナード」掲載分に大量の書き下ろしを加え、 計500枚の大ボリュームでおくる傑作エッセイ集! ・レンタル彼氏との騙し合い対決 ・担当税理士の結婚式にて炸裂させた渾身の余興 ・初めてのホームステイにてマル秘パンデミック勃発 ・ファッションセンス完全外注の経緯 ・特別収録!痔瘻の発症、手術、入院――著者の肛門にまつわるすべてをしたためた100枚超の手記「肛門記」…… 読んで得るもの特にナシ!! 立派な感想文なんて書けっこない、 ひたすら楽しいだけの読書体験をあなたに。

内容紹介・感想

 「風と共にさりぬ」と言えば、アメリカの女流作家マーガレット・ミッチェルの長編小説のタイトルであり、1939年に公開された映画が空前の大ヒットとなった誰もが知る名作である。

そんな「風と共にさりぬ」をもじって付けられてたであろう朝井リョウのエッセイ集第二弾「風と共にゆとりぬ」。このエッセイの表紙を捲った一枚目には、「マーガレット・ミッチェルに捧ぐ」とただ一文、そう書かれている。

このエッセイ集を読み終えた時、あなたはきっとこう思うだろう――。

風と共に去りぬ」要素が1%もねぇ……と。

 

とまぁ、前作の「時をかけるゆとり」を読んでいる人なら特に違和感を抱くことなく、慣れたものだとニヤリ、軽く流す所だろう。今回もそんな朝井リョウさんの悪ノリやジョークがふんだんに詰まったエッセイ集の第二弾である。

チョコレート色で洋書風のオシャレな装丁がされているハードカバーは、何気なくデザインに惹かれて手に取ることを想定した創意工夫なのだろう。

ただ、表紙捲って目次を確認すると――、

目次

 第一部 日常

  眼科医とのその後 ……008

  朝井家 in ハワイ ……019

  作家による本気の余興 ……030

  etc.

 第二部 プロムナード

  枠 ……194

  食う寝る踊る ……196

  スライドショーの隙間 ……198

  etc.

 第三部 肛門記

  前編 ……239

  中編 ……258

  後編 ……275

 と書かれている。

 ……第三部の出オチ感がすごい!

 ここでパタンと本を閉じてしまう人は、運命的な一期一会と言うべき縁を自らの手で断ち切ってしまったもったいない人である。と言っても、この本を手に取る人の大半はすでに朝井リョウさんの作品を読んだことがある人なんだろうが。初めて手にとった本が「エッセイ集」だなんて、星野源くらいしかありえないと思う。

 朝井リョウと言えば、「桐島、部活やめるってよ」、「何者」、「チア男子!!」などで有名な若手小説家である。個人的に平成生まれの小説家の中で、一番文章が上手いと思っている。同世代の人たちの心理描写や行動、会話をとてもリアルに描き、更には女性の内面についても女性作家を唸らせるほど緻密に描くことが出来るすごい人である。

 ――いったいどんな人なんだ? と訝しんでみると、意外にも普通に居そうな理知的なリア充の青年といった感じの人だ。安っぽい言い方だけど。

 このエッセイには、朝井リョウさんが友人の披露宴で本気の余興に挑んだり、レンタル彼氏の化けの皮を剥ごうとしたりといったちょっと笑えるエピソードが、軽快で饒舌な文章で書かれている。これを読めば朝井リョウさんがどういった人かが分かる。いい意味でも、悪い意味でも。

 前作の「風と共にゆとりぬ」の時は大学時代のエピソードが多かったが、今作では朝井リョウさんが社会人になってからのエピソードが多い。「日本経済新聞 プロムナード」に掲載されていたコラムも載せているため、割と真面目な意見や考え方を述べている部分も多く、読んでいて納得させられる、為になる所がある。それと、朝井リョウさんが東宝に勤めていて二足の草鞋で小説家をやっていた時どんな風だったのかがこのエッセイを読めば少し分かる。退職するときの話なんかも書かれている。

 この「風と共にゆとりぬ」、朝井リョウさんのファンや、同世代の人の価値観、小説家の体験談を知りたい人にはおススメの一冊である。

 

 個人的に面白かったエピソードを簡単に紹介します。

① 大好きな人への贈り物

朝井リョウさんは、仕事柄ライブや舞台に招待されることがあるが、その際にチケット代が発生しない関係者席に案内されため、無償では申し訳ないと招待者に差し入れをするようにしているらしい。そして、何を渡すかは、その人の好みを事前にブログを調べて決めるようにしているそうだ。

とある俳優の舞台に招待された際に、差し入れとして手渡したのは……、本物かと見紛う造形リアルなオクラの模型だった。

 

② プレ・講演会

朝井リョウさんは、小説家なので講演会の依頼が来るそうだが、本人は講演会というものは「実はこの人にしか当てはまらない経験談を延々と聞かされるもの――」として好きではなかったため、極力引き受けなかったらしい。この辺りの考え方は、すごい納得できるものがあった。新書とかノウハウ本を見ると個人的によく思う。でも、さも大衆に支持されているが如く売られていると、思わず信じてしまいがちだ。

――というのは、イカ臭い理論で、講演会を行う小説家というものはその手の悩みはすでに振りきり、仕事としてその責務を果たしているそうだ。私は一般人なので、未だイカ臭い理論止まりである。

そして、ある時、朝井リョウさんは就活に悩む大学生の座談会への参加を依頼されたため、それならばと依頼を引き受けることとなった。朝井リョウさんは「何者」という就活をテーマにした小説で直木賞を取り、更に数年前に就活を体験したばかりなので、人材として打って付けであり引き受けるのは道理である。

だが、朝井リョウからの素晴らしいアドバイスが繰り広げられるのかと思いきや、座談会に参加した学生は、すでに就活を終えた学生A、更に、学生Aは将来起業することを視野に入れ、「社長を男にしたい」という意欲のもと就活に取り組んでいたという……!?他には、音楽を本格的に行うために大学院に進むことを決め、しかもその意志は周囲の人間の言葉ですでに固まっているB子に、三年生ながら学芸を目指し、着々と歩みを進めている猪突猛進天才タイプの学生C。

あー、これぞ私にとってのザ・ゆとり世代だ。とゆとり世代の私が思った。

思えば、ドラマ「ゆとりですがなにか」に出て来る悦子先生や、小暮静磨を観た時にも似たような感覚を抱いたのを思い出した。

 

③ 肛門記

前作「時をかけるゆとり」を読まれている方はご存知だと思うが、朝井リョウさんは腹が弱く(お腹下しスト)、肛門がただものではない。

この肛門記では、朝井リョウさんが粉瘤を発症し、更には痔瘻を併発し手術するまでの約一年間の話が面白可笑しく書いてある。

尻の激痛と戦いながら、何食わぬ顔でサイン会やトークイベントに出席していたという事実、検査から次の検査までの日が長く、いつまでも手術に漕ぎつけないという絶望、それらが面白可笑しい調子で書かれている。

思わず笑ってしまう。軽快な文章に読んだら笑ってしまう。――だけど、実際に自分が体験するとなったら確実に笑えない。

 

 以上、「風と共にゆとりぬ」の紹介、感想になります。

 朝井リョウ先生の次回作に、乞うご期待しております今日この頃です。

時をかけるゆとり (文春文庫)

時をかけるゆとり (文春文庫)