有頂天家族 二代目の帰朝 -書評
『有頂天家族』の続編!前作が好きな人にはオススメ、期待を裏切らない展開!
- 作者: 森見登美彦
- 出版社/メーカー: 幻冬舎
- 発売日: 2017/04/04
- メディア: Kindle版
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タイトル | ジャンル | 著者 | 出版社 | 敢行日 |
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有頂天家族 二代目の帰朝 | コメディ | 森見 登美彦 | 幻冬舎 | 2017/4/5 (文庫版) |
群像劇 | 2015/2/1 (単行本) | |||
現代ファンタジー | ||||
ヒューマンドラマ(狸) |
1.あらすじ
狸の名門・下鴨家の矢三郎は、親譲りの無鉄砲で子狸の頃から顰蹙ばかり買っている。皆が恐れる天狗や人間にもちょっかいばかり。そんなある日、老いぼれ天狗・赤玉先生の跡継ぎ〝二代目〟が英国より帰朝し、狸界は大困惑。人間の悪食集団「金曜倶楽部」は、恒例の狸鍋の具を探しているし、平和な日々はどこへやら・・・・・・。矢三郎の「阿呆の地」が騒ぐ!
原作帯より引用
2.主な登場人物
No | 人物名 | 特徴 |
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1 | 下鴨 矢三郎 | 主人公。狸。普段は大学生姿をしている。阿呆でオモシロ主義。化けるのが大変得意。 |
2 | 下鴨 総一郎 | 父。洛中に名高い狸。かつての偽右衛門。数年前に金曜倶楽部に狸鍋にされた。 |
3 | 下鴨 矢一郎 | 下鴨家の長男。若旦那風の姿をしている。責任感は強いが土壇場に弱い。 |
4 | 下鴨 矢二郎 | 下鴨家の次男。普段は蛙に化けて古井戸に引き篭もっている。暢気でやる気がないが思慮深い。 |
5 | 下鴨 矢四郎 | 下鴨家の四男。少年の姿をしている。化けるのが下手。純粋で臆病。 |
6 | 下鴨 桃仙 | 母。割烹着を来た母親姿か、タカラヅカ風美青年の姿をしている。雷に弱い。 |
7 | 狸谷不動の祖母 | 祖母。純白の毛玉。やはらかな威厳。 |
8 | 赤玉先生(如意ヶ嶽薬師坊) | かつては如意ヶ嶽一円を支配する大天狗だったが、今や神通力は殆ど失われ落ちぶれている。 |
9 | 弁天(鈴木 聡美) | 人間。冷徹なる美貌を有し、自由奔放。赤玉先生に天狗の術を教え込まれた。金曜倶楽部メンバー。 |
10 | 夷川 早雲 | 下鴨 総一郎の弟。偽右衛門の座を狙っている。前作以来、洛中から行方をくらませている。 |
11 | 夷川 金閣 | 本名呉二郎。双子の兄。意味不明な四字熟語を使う阿呆。何かにつけて下鴨家に喧嘩を売る。 |
12 | 夷川 銀閣 | 本名呉三郎。双子の弟。 |
13 | 夷川 呉一郎 | 早雲の第一子。僧の姿をしている。清貧であり、周囲からの評判が良い。 |
14 | 夷川 海星 | 金閣・銀閣の妹。なぜだか矢三郎の前には姿を現さない。口は悪いが性格は良い。矢三郎の元許嫁。 |
15 | 寿老人 | 金曜倶楽部の中心人物。ただ物ではない雰囲気を漂わす、恰幅の良い老人。 |
16 | 淀川教授 | 大学の農学部教授。狸をこよなく愛する。かつては金曜倶楽部の布袋であったが、前作で除名された。 |
17 | スズキ君 | 淀川教授の研究室に所属する学生。 |
18 | 二代目(如意ヶ嶽薬師坊二代目) | 英国紳士。赤玉先生の血縁で、少年時代に天狗教育を受けた。弁天とは因縁がある。二代目が百年ぶり帰朝したことを起点として、物語は転がり始める。 |
19 | 天満屋 | 小柄な中年男。胡散臭い。固太りの幻術師。寿老人の部下。 |
20 | 八坂 平太郎 | ハワイ好きな狸。臨時で偽右衛門の座についている。 |
21 | 菖蒲池画伯 | 作務衣姿の痩せた老人。少しカタコトで話す。 |
22 | 園城寺 権三郎 | 狸 |
23 | 南禅寺 玉蘭 | 南禅寺頭領の妹。矢一郎と惹かれ合っているが、中々進展していない。無類の将棋好き。 |
24 | 南禅寺 正二郎 | 南禅寺の頭領。和服姿。 |
25 | 鬼女 | 若い女の青鬼。焼け焦げや染みだらけの作業着を着ていて、ばさばさの金髪。 |
26 | 岩屋山 金光坊 | 赤玉先生の旧友の天狗。 |
27 | 清水忠二郎 | 矢三郎のアルバイト先の骨董屋主人 |
28 | 岡崎の首領狸 | |
29 | 鞍馬天狗たち | |
30 | 金曜倶楽部メンバー | 大黒、毘沙門、恵比寿、福禄寿、社会的地位はエライ人ばかり。 |
31 | 第十八代金長 | 四国、阿波徳島の狸。顔は髭モジャ、全体的に丸っこく、狸気が溢れ出ている。 |
32 | 藤ノ木寺の鳶 | ニコニコ笑顔、几帳面そうな着物姿で、眼鏡を光らす大男。金長一門の参謀。 |
33 | 金長の居候 | 禿頭の坊主らしき男。こちらもまた、狸気が滲み出ている。 |
34 | 金長 星瀾 | 金長の娘。矢二郎を金長の屋敷まで案内する。 |
3.各章紹介
二代目の帰朝
モノローグから入り、主人公の矢三郎と赤玉先生との日常風景で導入部は始まる。翌日、矢三郎が弟の矢四郎と如意ヶ嶽に出かけると、「天狗つぶて」と呼ばれる天狗の落とし物に遭遇する。それは、二代目如意ヶ嶽薬師坊の所有物であり、彼が帰朝したことを告げるのであった。如意ヶ嶽薬師坊たる赤玉先生と二代目で一悶着起こらない訳がない。矢三郎は、中立的立ち位置を貫く一介の狸として事の収拾に奔放するのだった。
南禅寺玉蘭
矢三郎の父、先代偽右衛門、下鴨総一郎が狸鍋に落ちた後一時休止に追い込まれていた南禅寺家主催の狸将棋が長兄の矢一郎の頑張りにより復活した。無類の将棋好きである南禅寺玉蘭、彼女と次兄の矢二郎の将棋勝負の行方や如何に。――どうして矢一郎は玉蘭と将棋を指さなくなったのか?思い出の中にしかない父の秘密の「将棋の部屋」は一体何処に?世にも珍しき狸の恋模様が、ここに描かれる。
幻術師天満屋
「森羅万象これエンターテイメントよ」そんな見栄を切る謎の怪人、天満屋が寺町通商店街に違法建築物たるラーメン屋を構えた。彼の出現により起こり始めた怪現象に悩まされた商店街振興組合の代表者たちは、矢三郎に天満屋の立ち退きに一役買ってくれと依頼する。生来のオモシロ主義たる矢三郎に断る理由などなく、安易に引き受けるのであったが……、いやはや世の中というのは恐ろしい。まさか、今や人間が狸を化かす時代を迎えるとは。天満屋とは一体何者なのか?そして、ついに満を持しての弁天の登場である!
大文字納涼船合戦
夏と言えば花火、信楽焼と言えば狸、有頂天家族と言えば--言わずもがな大文字納涼船合戦である。夷川家と下鴨家の意地の張り合い、お祭り騒ぎ、今年もまた合戦の火蓋が切られた。金閣、銀閣、大活躍。飛び散る火花は留まることを知らず、様々な思いを燃え上がらす。……だが、その火は燃えてはならぬものにまで火をつけたか?納涼船が借りられない問題に対して矢三郎が出した奇策とは?五山送り火の宵が始まる。
有馬地獄
打って変わってシリアスな展開。それもそうだ、狸たちの仇敵、金曜倶楽部の登場である。淀川教授を救うべく有馬温泉に矢三郎であったが、今年の金曜倶楽部の会合はちょっと毛色が異なるぞ?あれに見えるはいつの日にか見た地獄絵図。暗雲立ち込める雰囲気。こりゃあ、悠長に有馬の湯に漬かっている場合ではない。私は、寿老人という男の恐ろしさを、この目にまじまじと見せつけられるのであった。「渡世間に鬼はなし」この言葉を鬼女に抱く日が来ようとは。真に驚天動地である。かの人物も登場し、波乱の一幕。――「貴君を布袋の席に迎えよう。金曜倶楽部へようこそ」
夷川家の跡継ぎ
夷川家の長兄である夷川呉一郎が十数年振りに京都に帰って来た。ボロ切れのような僧服に身を包み、清貧なる狸。の姿が板につき、悟りを開いたその姿は狸らしからぬ。勤勉なる狸。彼の帰省により、夷川家の工場は安泰。下鴨家との仲も歴史的安泰に向けて進み始め、次男の矢二郎は京都を旅立つ決心をつけた。
だが、矢三郎はそんな日々の変化に悶々とした思いを募らせ、家出をする。折角探しに来てくれた嘗ての許嫁である海星も捻くれた文句ばかり言う始末。当然言い争いになる中で、矢三郎はどうして今まで海星は自分の前に姿を現さなかったのか、優しき海星の思いを、その理由を知る。
穏やかなる日がしばらく経った頃、偽右衛門の狸選挙が行われる事となった。その席には天狗の立ち合いが必要だが、赤玉先生が後任に選んだのはまさかの弁天様。狸たちが納得出来るはずもない。面倒事が起こるたびに声をかけられる矢三郎は、問題解決に大博打の一計を講じるが……、これが後にうんと波風を立てることとなる。
天狗の血、阿呆の血
弁天様を怒らせた矢三郎は、偽衛門が決まる日まで逃亡生活に身を置くこととなった。「逃げの矢三郎」の異名を持つ矢三郎がそう簡単に見つかる訳もない。――だが、何事もなく事が収まるはずもなく。年末に控える金曜倶楽部の忘年会に向かって、着々と不穏な裏工作は進んでいるのだった。矢三郎の下に現れる天満屋、偽電気ブラン工場にある矢四郎の実験室の爆発事故――、そして、来たる忘年会。今年、狸鍋に落ちるのは!?矢二郎の旅の行方も絡み、物語は最後の舞台に向かって収束する。
有頂天家族の醍醐味、馬鹿騒ぎの大立ち回り。今度は弁天様と二代目、二人の天狗が居るものだからその騒ぎはさらに過激なものとなる。まさかのぽんぽこ仮面も登場。物語の顛末や如何に。――『弁天に必要なのは私ではない。狸であってらだめなのだと。』