文芸コンパス

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レンタル世界『ままならないから私とあなた』 -書評

「レンタル友人」「レンタル彼女」を題材にした小説。

そういった仕事をしている人は一体何を考えているのか?価値観の違いがぶつかり合う。主人公は、「レンタル彼女」を自分の本当の彼女にしようと奮闘する一人の社会人。(『レンタル世界』は、小説『ままならないから私とあなた』に収録されている短編です)

ままならないから私とあなた

ままならないから私とあなた

 

作品紹介

先輩の結婚式で見かけた新婦友人の女性のことが気になっていた雄太。
しかしその後、偶然再会した彼女は、まったく別のプロフィールを名乗っていた。
不可解に思い、問い詰める雄太に彼女は、
結婚式には「レンタル友達」として出席していたことを明かす。 「レンタル世界」

成長するに従って、無駄なことを次々と切り捨ててく薫。
無駄なものにこそ、人のあたたかみが宿ると考える雪子。
幼いときから仲良しだった二人の価値観は、徐々に離れていき、
そして決定的に対立する瞬間が訪れる。 「ままならないから私とあなた」

正しいと思われていることは、本当に正しいのか。
読者の価値観を心地よく揺さぶる二篇。 原文まま

タイトル ジャンル 著者 出版社 敢行日
ままならないから私とあなた ヒューマンドラマ 朝井リョウ 文藝春秋 2016/4/10(単行本)

 

“未知”という言葉が放つ魔力、その力に魅せられた奴等がいる、人は彼等を――

 人ってのは知らない世界に惹かれる所がありますよね。良くも悪くも。アンダーグラウンドな世界や危ないものに首を突っ込みたくなる欲求ってのは何なんでしょうか。

 ――とまぁ、某人気漫画の冒頭のフレーズを使わせてもらった訳ですが。

 今回、紹介する「レンタル世界」は、レンタル友人や、レンタル彼女を題材にした作品です。テーマが良いよね、テーマが。その時点で、内容に興味がわきます。興味本位で、好奇心は猫を殺すが如く片足を踏み込みたくなります。サスペンス、ヒューマンドラマ、コメディ、笑うセールスマンのような、石黒正数が描くようなSF、色んな設定でストーリー展開出来そうな所も魅力的です。

 本作のジャンルとしては、ヒューマンドラマが最も近いのでしょうか。レンタル友人、レンタル彼女という仕事をしている人が何を考えているのか、その心の内を描いた短編小説といった所ですかね。そんなにエンタメ色は強くなくて、現実が舞台です。読後は心がもやもやと、何ともビターな気持ちになるような話です。

 下記、ざっくりとしたあらすじです。

 

あらすじ

 主人公の雄太は、先輩の結婚式に新婦側の友人として出席していたナントカヨウコという子のことが、ずっと気になっていた。ある時、雄太はその子に偶然出会い声をかけると、彼女の本名は「高松芽衣」で、あの結婚式には「レンタル友人」として参加していたという、思いもよらない事実を知ることになる。

 彼女をどうしても口説きたい雄太は、野上先輩に「ちゃんとした彼女が出来たら、うちに連れてこいよ」と言われていたことを思い出し、咄嗟に「レンタル彼女」の依頼をして場をつなぐのだった。

 野上先輩の家で、先輩の奥さんに料理を振舞ってもらい、雄太は高松芽衣を本当の彼女の様に思いながら、4人で楽しく過ごす。だが、物語は思いもよらない結末を迎えるのだった。

 

主人公の雄太がチャラい。

 朝井リョウさんの小説には珍しく、主人公がかなり嫌な性格をしてます。

 なんと、物語は雄太が野上先輩から紹介された風俗嬢について、感想を言う場面から始まります。また、雄太には高松芽衣に出会う前から真由佳という彼女がいるのに、真由佳のことは極論で言えば体目当て、デートの最中でも平気でほっぽりだすと散々な態度。

 だが、雄太には中高生から築いて来たラグビー部の友人との厚い信頼関係という強みがあるため、「ウソつかないで、恥ずかしいこともさらけ出せるからこそ、分かりあえる」という信条を持ち、それが逆に厄介さん。

 高松芽衣には、レンタルなんていう偽りの人間関係を否定したい、レンタル友人をしているのは人間関係について何か辛い過去があるからだ、自分の彼女にしたい、といった熱い思いのもと迫ります。

 

一筋縄に行かない展開が面白い。

 ストーリーは恐らく読者の期待を裏切る所に着地をする。やっぱり予想のつかない展開だからこそ面白い。また、人の内面を描いた小説なので、一概に誰が正しいとか間違ってるとか、そう言った考えに簡単に答えが出ないのが良いですね。

 雄太と高松芽衣はレンタル業に対して下記の主張を持っていて、互いに意見をぶつけ合うことになります。

 雄太「レンタルなんかでその場を凌いだって、またすぐにその場を凌がないといけなくなるんきゃないのか?」「人間関係ってのは、ウソつかないで、恥ずかしいこともさらけ出せるからこそ、分かりあえる。」

 高松芽衣「その場凌ぎの人間関係だって時には必要。その場凌ぎだったとしても、それがその後の本物の人間関係を築ける一歩になるかもしれない」「お互いに絶対にウソをつくべきでない、そういった窮屈な思い込みが、誰かのなけなしの一歩目を踏みにじってる可能性だってある」

 

個人的な感想

 もっとコメディチックな話なのかと思っていたら違った。

 雄太はチャラい奴として書かれているが、割りとしっかりとした考え方をしていたり、その割に見た目はゴリラであったりと、ちょっと人物像が想像できなかった。設定が先行していて、人物は探り探り書かれた、もしくは具体的にモデルにした人がいなくてイメージで書いた。そんな感じがした。あと、「この人の考え方を変えたい。」は朝井さんの台詞だと思う。

 朝井リョウさんが書く話は、シチュエーションだとか登場人物の背景とか、会話内容とかがやっぱり良い。雄太が真由佳と謎解きゲームに参加する所だとか、台詞回しだとか、身近にもこんな人いるなーと共感させられる部分が多い。

 雄太と高松芽衣の主張は、どちらが支持されることになるのか、物語はどんな展開で終えるのかは、自分で確認してください。55ページしかないのでサクッと読めます。

 

 また、この小説にはもう一つ「ままならないから私とあなた」が収録してあります。本のタイトルにもなっており、文量も多いのでどちらかと言えば「レンタル世界」よりもこっちの方がメインですね。

 はっきりした形のないもの、一見非効率的なもの、言うなれば、人の心、雰囲気、思いやり、そういったことを大切にする雪子と、意味のないことや、必要のないことを否定し、効率的に生きることを指針とし、世間的に見て成功者としての道を進めて行く薫。

 二人の少女の友情とすれ違いを、幼少期から大人になるまでの成長を描いた物語。

 感想を一言で言うなら、完成度高けーなオイ、ですね。

 やる気があったら、あらすじとか書きます。

 全部読み終えてみると、そういえば、この2作って現代人の思想だとか、価値観の変化を小説にしてますね。目の付け所がいいなーと感心させられます。